好子は会社に帰って来た。
ドーナッツ好きの洋一が腕を包帯で吊って、顔にも包帯を巻いた状態で廊下を歩いているのが見えた。
話を聞いてみると、好子をバットで殴った同じお客から殴られたということらしい。

その日は珍しく23時前に仕事を切り上げて、会社からちょっと離れた「東方見聞録」という居酒屋にその日は二人で飲みに行った。

「いくら何でも殴らなくたっていいじゃんかよ!まったくあの客は野蛮人だ。」
「私も殴られたし、それにかに道楽までさせられたんだよ!」
「それもひどいね」

「でさ、僕、さすがにこれは傷害罪だから、警察に行こうって思ったんだ。そうしたら、
『警察なんか絶対に行くなよ!行ったら、クビだからな!』
って主任から怒られたんだよな。いくらさ、取引先だからってそれはないよな・・・。

その後、主任から五千円渡されてさ、これで我慢しろってさ。
けち臭いよなあ。
いらないよ、ってよっぽど言おうと思ったけど、受け取らないと怒り出しそうだったから、受け取っちゃった・・・。あの時は悔しかったけど、でもまあいいや、今こうして君と飲むきっかけができたし。」

それって、どういうこと?でもそれに好子は触れずに、

「警察に行かれたら、困るってことなんだよね。取引先がなくなるから?それだけの理由かなぁ。」
「うーん、わからんなぁ・・・。」
「でもとにかく、警察に行かれたら会社はすっごく困るってことだよね。」
「そうらしいね。」
「私ね、あのCDに何か秘密があるんじゃないか?って気がするのよ。」
「ああ、確かにあの扱いはちょっと普通じゃないよな。」
「そこにひょっとしたら全ての秘密が隠されているんじゃないかなって・・・。」

もう時計は25時半を回っていた。

「もう、帰ろうか。私、もう酔っ払っちゃったし・・・。」
「そうだね。そうしよう。」
「・・・あのね、洋一の家に泊まっていい?」
洋一はちょっとはにかんだような表情をして、
「いいよ。」
と言って頷いた。

それ以後、洋一はCDをセッティングする機会を伺っていた。

なかなかその日はめぐって来なかったのだが、ついにその日はやってきた。
お客のパソコンにインストールをして、その足ですぐにネットカフェに行きCDをコピーしたのである。
洋一は緊張していた。
コピーも厳禁なのだ。もし、コピーを行ったということが発覚したら、同様の罰則、つまり解雇と罰金が待っている。

洋一は自分のアパートのこたつの上においてあるノートパソコンに、いつもやっているようにCDをセットして、インストール作業を行った。順位確認システムにキーワードとURLを適当にセットした。

「ん?何か重いな。」

インストールしたら、パソコンの動作が重たくなった気がしたのである。

「え?本当?」

好子が横から覗き込む。
確かに、好子の目にもマウスカーソルの移動が引っかかるように写った。
洋一のパソコンは10年前ぐらいの中古のパソコンだったせいか、スペックが低いせいで動作が重くなったのが際立ったのかもしれなかった。